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「ガチ過ぎ」が裏目?プロが絶賛した声優漫画は、新しい漫画の作り方で再び輝けるか【棚橋なもしろ×小金丸大和】#マンガ続編制作プロジェクト #特別インタビュー

小禄卓也
執筆者:小禄卓也

「漫画のセレクトショップ」をコンセプトに、名作漫画の発掘を至上命題としているマンガトリガーは、この度『マンガ続編制作プロジェクト』を立ち上げました。

志半ばで連載終了してしまった漫画の中から、作家たちが最後まで描き切りたいという意欲のある作品をピックアップし、12/4(月)〜12/25(月)の期間中に目標を達成すれば「続編一巻分の制作権」を獲得できるというこの企画。対象作品は、漫画誌「月刊ヒーローズ」にて、2015年5月号から2016年12月号まで連載されていた声優業界のリアルを描いた『ボイスカッション』です。

今回、そんなガチンコ勝負な企画に勇敢にも挑戦していただく漫画家・棚橋なもしろ氏と原作者・小金丸大和氏の両名へ、マンガトリガー編集長がインタビューを敢行しました。『ボイスカッション』を描くに至った背景から、作品の魅力や後悔、そして続編に懸ける想い……。再び立ち上がろうとする作り手たちの心の叫びをぜひ聞いてください。

 

ーー今日はよろしくお願いいたします。まずは、『ボイスカッション』が生まれた背景を教えていただけますか?

小金丸大和(以下、小金丸) 私がもともと舞台の脚本やっていたのですが、大学の同時期に伊藤健太郎という声優がいたんですね。その大学自体が人気声優を多数輩出しているところでもあるんですけど、一緒にお芝居をやらせてもらっていました。多くの声優の方たちと仕事をする中で感銘を受けたのは、お芝居の素晴らしさ。声優の方たちの技術力、演技力の高さを知るうちに、「声優をテーマに漫画を描いてみたい」と思うようになったのが、『ボイスカッション』が生まれたきっかけです。

棚橋さんとは『ハンマーセッション!(講談社刊)』の時にご一緒していたこともあり、信頼と尊敬があったので「ぜひ!」とお願いしたところ、ご快諾いただいたんです。

ーー棚橋先生は、最初に『ボイスカッション』のお話を聞いた時の印象はどうでしたか?

棚橋なもしろ(以下、棚橋) 私は声優が大好きなんですよね。中学時代は声優名鑑を持っていて、小学校の卒業文集には「声優になりたい」と書いていたくらいです。だから、最初に声優漫画(を作る)と聞いた時はもちろんやりたいと思いましたし、断って他の人が小金丸さんと組んでできた作品を見て嫉妬するのも嫌だなぁと思い、受けました(笑)。

小金丸 僕はガチで声優業界に切り込んだ漫画はないと思っていて、だからこそやってみたかったんですよ。ただ、突っ込んだことを言うと、そのリアルさが逆に『ボイスカッション』の寿命を縮めちゃったのではないか、と今となっては少し反省しています……。

ただその分、声優業界の方々からはすごく評価が高かったんですよ。実際に業界にいる人にとっては勉強になるような内容だったのですが、ディープ過ぎて一般の方にとってのおもしろいポイントとは違ったのかな、と。

ーーネット上でも「すごいリアルだ」という評価は高かったです。お二人は『ハンマーセッション』(週刊少年マガジンにて、2006年50号から2009年2・3合併号まで連載)以来のタッグだと思うのですが、お互いの印象を伺ってもよろしいでしょうか?

小金丸 僕は舞台出身なんですが、ストーリーラインを作るのが脚本家の仕事で、キャラクターに色付けをし過ぎることは越権行為になってしまうため、あまりしません。その部分は、自分でも得意じゃないと自覚しています。一方で、棚橋先生の絵はキャラクターにしっかり芝居をさせてくれるんです。セリフを聞いた時にどんな表情をするのか、このセリフを言っている時にどんな姿勢をしてどんな顔をしているのか。いつも僕の想像を超える演技をさせてくれているのがとても素敵です。ネームを読むのも毎月楽しかったですね。

ーー印象的なシーンはありますか?

小金丸 普段ぼーっとしている主人公の琴里がキリッとした表情に変わる瞬間は、いつもハッとさせられました。あとは、ライバルの月島彩乃さんが時々悪い顔になるんですが、そうした小さな遊びは原稿が仕上がったタイミングで思わず笑ってしまったりします。

スイッチが入った途端、琴里の表情は一変する ©棚橋なもしろ・小金丸大和/ヒーローズ

あとは単純な感想だけど、女の子が本当にかわいくて。それは棚橋さんの武器だなぁと。『ボイスカッション』に関しても、棚橋さんの描くかわいい女の子が声優界のリアリティや深みを引き出しているように思います。

ーー棚橋さんとしては、小金丸さんの印象はいかがでしょう?

棚橋 すごくやりやすいです。原作と漫画が分かれていると、揉めたりすることもあると思うのですが、そういうのがないですね。『ハンマーセッション』の時から信頼関係はあるので、私からも「こう描いた方がいいでしょ!」といった感じで気を遣うことなく提案できましたし。小金丸さんがすごくいい人なので、ゴリゴリ攻められました。逆にもっと小金丸さんに攻めていただいてもいいんですけどね(笑)。

小金丸 僕の考えでは、漫画は漫画家さんの作品であり、僕は漫画家さんの触媒になる原作が書けるようになりたいと思っているんですね。僕の一文を読んだ時に、棚橋先生の頭の中に絵が浮かぶことが大事で。「この絵と一文は合ってない」と言われることがあるとしたら僕の責任なんですけど、棚橋先生に関しては悪い方に転ぶことがありませんでした。

ーー今改めて、「ここはもっとこうしたい」みたいな思いはありますか?

棚橋 『ボイスカッション』は琴里ちゃんが最初から一人で頑張ってくれたんですけど、彼女と同じくらい強いキャラが早めに登場してほしいとは思っていました。周りのキャラが強ければ主人公が立つし、お互いが引き上げてくれるんですけど、一人だけ突っ走るのは絵を描く身としては結構パワーを使うんですよね。他に同じくらい力の強いキャラを登場させて琴里を助けてあげられればなぁと。

例えば、ライバルキャラの月島彩乃ちゃんがもっと早く登場して琴里と対立するようなシーンを描ければ、もっと深みが出たのかなぁと思います。

優しいふりをして敵意むき出しの行動を取る月島彩乃  ©棚橋なもしろ・小金丸大和/ヒーローズ

小金丸 僕はあるレベルに達している声優の背後にガーゴイルや天使を描くことで「共感覚(シナスタジア)」という概念を具現化し、声の凄さや声同士の戦いの凄さを表現したかったのですが、その設定をもっと活かしたかったです。僕の中でシナスタジアを活かせたら、もっとすごい声バトルが描けたんじゃないかなぁと思っていたのですが、難しい言葉と理屈で無理に解説しようとしてしまったことが逆に読者のみなさんを余計に混乱させてしまった気がします。

木村(担当編集) 声優の世界の良い部分をあまり描かなかったから、というのはあるかもしれませんね。どちらかと言うと小金丸さんがおっしゃっていたような「暗部を描きたい」という方に向き過ぎちゃったのかなと思います。

小金丸 でも、リアルを追求しちゃうと、やっぱり良くなるまでに時間が掛かっちゃうし、良い場面は必然的に少なくなっちゃうんですよね。ポンポンポンって売れていっちゃうと嘘になるし、そこまで現場の声優さんたちからの評価は高くなかったと思いますし。もし新たに描かせていただけるなら、もっとバランスを取って描きたいです。

ーー今回の続編の話を聞いた時の印象はどうでした?

棚橋 私は、「あ、いいですよ」と言ったような気がします(笑)。(連載終了から)ブランクはありますけど、今の段階で作る時のことまで考えても仕方がないから、「とりあえずやってみよう!」みたいな。断って仕事ができなかった方が辛いので、締め切りが辛くても乗り越えたら残るじゃないですか。だから焼肉を食べながら「いいですよ」って。

でも、やはり成功してほしいなと思います。締め切りが重なったら「くっそこんな仕事入れちまって……」とか後悔するかもしれませんが(笑)、上がらない締め切りはないですから。

小金丸 僕は、この話をいただく前はめっちゃ怖かったです。一年も前に終わった作品のことで呼び出されて「何怒られるんだろう」って(笑)。そんな風にかなりびびっていたんですけど、焼肉屋さんで企画書を見せていただいてお話を伺った時は、めちゃくちゃ嬉しかったです。

僕は『ボイスカッション』が大好きですし、連載が終わると聞いても正直描きたいことがいっぱいある状況で終わってしまった作品でしたから。今回の企画で少しでも続きが書けるかもしれないと思ったら、すごく嬉しくなって。もしチャンスを本当にいただけるなら、全力で書きたいと思っています。

奢りじゃなくて作品には自信があるので、読んでもらえればおもしろいと言ってもらえると今でも思っているので、例えば今回の企画がきっかけで広く火がついて、もしかしたらまた『続きが読みたい」と言ってくださる方がいれば、書けるかもしれない。夢見ちゃいますよね。それくらい、棚橋先生が描く琴里ちゃんが好きです。

木村 やれるのだったら僕もこの作品でやり残したこともありますし、お二人とも仕事がしたいですし。後はスケジュール次第でしょうか(笑)。

ーーマンガトリガーのコンセプトが、「名作漫画を発掘して届ける」というところにあるんですけど、こういう新しい漫画のつくり方について皆さんどう思われますか?一度作った作品を改めて発掘してまた走り出そうということについても。

小金丸 すごくいいことだと思いますし嬉しいけど、漫画家さんはインターネットに強い人だけじゃないから、不安な面も正直ありますね。ツイッター自体をやっていないので、ツイートしてもらえるのか、どう拡散してもらえるのかが分からなくて……。

ーー棚橋さんはいかがでしょう?

棚橋 今、漫画界がここ10年で色々変わってきているので、私もついていくのに必死ですね。アシスタントさんの形式ですら、デジタルで在宅アシスタントが増えてきているくらいですし。そんな状況だから、システムに関してみなさんが色々考えてくれるのは嬉しいです。漫画家にできることはおもしろい漫画を作るだけなので、披露する場が増えるのはありがたい。デジタルだろうが紙だろうが、漫画家がやるべきことは変わらないので、より好みをせず、やれることはやっていきたいです。

ーーありがとうございます。最後に一言お願いします。

小金丸 演劇とアフレコについてはもちろん描きたいんですけど、声優たちがなぜ寝る間を削って舞台をやるのか、みたいな話をすごく描きたいんですよ。それは、声優さんたちが自分のスキルを上げるために舞台をやっているから。その辺は僕じゃないと描けないと思っているので。そういう声優業界の謎をより深く描きたい。

木村 またニッチなところを……。

一同 (爆笑)

小金丸 そこはおもしろい話なので。それを知ってもらえれば、いろんな業界で夢を追いかけてる人たちが「自分も頑張るぞ」と思ってもらえるはずなので、ぜひ読んでもらいたいです。作品には自信を持っているので、手にとって読んでみてください。

棚橋 読んでもらえる機会をもらえたので、それが一人でも多くの方に読んでもらえたらなと思って。自信作。紙で出合えなかった人たちにも、ネットだと幅広く手軽に読んでもらえるのではないか。漫画家は読んでもらえることがご褒美なので、とにかく読んでいただけると嬉しいです。

木村 今まで月刊ヒーローズという限られた範囲内でしたが、今回オープンな場でいろんな人たちの目にとまる機会を得られたのは嬉しいです。いろんな方に読んでいただいて色々な感想をもらいたいですし、色々なことを考えてもらいたいです。漫画がこれだけ数多くある中で、読まれている作品はごく一握りだと思うので、Webやアプリという媒体の特性を活かしてより多くの方に触れてもらえれば嬉しいです。編集も漫画を沢山の読者に届けるのが仕事なので。一人でも多くの方に届くといいなと思います。

ーー貴重なお話をありがとうございました。

取材・文: 小禄卓也 写真: 鈴木渉

執筆者プロフィール

小禄卓也

小禄卓也

マンガトリガー編集長

喫茶店でコーヒーを飲みながら漫画や本を読むのが趣味。好きな漫画は『うしおととら』『なにわ友あれ』『惡の華』。生臭い人間関係を描いた作品が好きです。Twitter(@coroMonta)で漫画のことをよくつぶやいています。

小禄卓也氏のマンガトリガー一押し

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  • 『ボイスカッション』@続編制作プロジェクト実施中(12/25まで)

    漫画:棚橋なもしろ 原作:小金丸大和

    幼いころ、父から「おまえの“声”が憎い」と告げられた琴里。それ以来、自分の声を、殻を閉ざし続けていた。だが、演劇部の舞台に立った時、琴里の世界は一変する。ーーー私は声優になりたいーーー運命に導かれるように、琴里は声優への道を歩み出す!!

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