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【特別インタビュー】「若者は新時代のスポットライトを開拓せよ」都築響一氏が語る漫画業界の憂鬱と光#座右の漫画 #都築響一

都築響一
執筆者:都築響一

「人生に影響を受けた漫画、ないんだよねぇ」

そう話すのは、70年代より現在に至るまでフリーの編集者として現場の第一線で活動する都築響一氏だ。

『POPEYE』『BRUTUS』などでフリーの編集者として活躍した後、東京の生活感溢れる居住空間を撮影した写真集『TOKYO STYLE』や日本各地の珍スポットを収録した『珍日本紀行』を刊行するなど、自ら足を運んで見つけた世界各地のおもしろいものにスポットライトを当てる都築氏。もともと現代美術や音楽などの分野に造詣が深く、その「目利き」のユニークさや歯に衣着せぬ物言いは多くのクリエイターが注目しているところだ。

開口一番、今回の「#座右の漫画」企画の出鼻をくじかれてしまったものの、そんな彼の目利きは「漫画のセレクトショップ」をコンセプトにしたマンガトリガーにとっても参考になるに違いない。気を取り直してインタビューを進めていくと、様々な文化やアートに触れてきた都築氏が感じる「外から見た漫画業界の閉塞感」や「これからの時代の漫画家の生き方」について興味深い話を聞くことができた。

編集者・都築響一氏

「僕が若かった当時は文学やロック音楽の方が救いになっていました。作品に反体制的な思想や意思があったから。そういう意味では、中学高校ぐらいはアメリカの漫画をよく読んでいて、雑誌の「プレイボーイ」や「マッド」なんかで描いていたハーヴェイ・カーツマンという漫画家が好きでしたね。やっぱり、当時のアメリカって若者がベトナム戦争に駆り出されたり情勢が不安定だったりで、そんな状況下だったから漫画の内容も大人っぽくて、反体制的なものとかがいっぱい出ていたんです。家の近所に評論家の植草甚一さんも足繁く通っていたイエナ書店という有名な本屋さんがあって、そこで英語の勉強も兼ねて読み漁っていましたね」(都築氏)

昔からアートや文化に触れていた都築氏だが、日本の漫画に関して言えば、当時はあくまで「商売としての漫画」という意識が強かったという。

「日本の漫画もわりと昔から読んでいたけど、世代的に初めて読んだのは『鉄腕アトム』や『鉄人28号』だったかなぁ。でも、価値観を揺るがすほどのインパクトを受けた漫画というのはないね。特に、漫画自体が今みたいに誰でも描けるものじゃなかったし、若い世代が自分のやりたいことを表現するようなものではなかったから。結局のところ、産業自体が巨大メディアの手の中にあったから、私たち世代にとって『SLAM DUNK』のような同世代性を感じられるような漫画はあまりないんだと思います。

 そうした昔ながらの商業的・大衆的な漫画から、今は大分変わってきましたよね。漫画なのかエッセイなのか、もはや区別がつかないような作品も多い。自分でゼロ円で発信できるから、メディアも問わない。週刊漫画誌を筆頭に、今まで売れてきていた商業誌の発行部数が急速に落ちている中で、商業誌の枠にとらわれずに漫画を描く層は爆発的に増えているのは、すごくおもしろいシーンだなと思います」(都築氏)

しかし、いくら自分たちでゼロ円で発信できるからといって、一人で創作活動を続けたところでなかなかスポットライトが都合良く当たるなんてありえるのか?そんな疑問を投げ掛けると、都築氏はこう続けた。

「あなたの言う『スポットライトが当たる』というのは、おそらく(数百、数千万部の規模で)売れる、ということですよね。それはそれで否定はしないけど、その視点だけで物事を語るということはすでにメジャー的な考え方に毒されていると思うんですよ。

 僕は漫画は好きだけど、今の編集者と漫画家が二人三脚で作るスタイルは好きじゃないんだよね。漫画家に対して『もっとこうした方がいい』とか『この表現描き直して』とか、それこそメジャー的価値観の『スポットライトが当たる』ことをゴールに色々言っちゃうから、漫画家たち一人ひとりの作家性がなくなっていくんじゃないかなって。

 今だったら、コミケやコミティアで漫画を自費制作で1000〜2000部とかを販売して、特に不自由なく生活できている人だっているんだから。構造が似てるって言われている音楽業界だって、EXILEやAKBグループのCDが売れてるけど、皆が皆あんな売れ方をしたいって思ってるわけじゃないじゃない。全国各地のライブハウスを埋めるようなインディーズバンドが山ほどいるのと一緒で、それを支持してくれる熱狂的なフォロワ―がいれば十分だって思う人もいると思うんですよね」(都築氏)

紙の書籍の販売は伸び悩んでいる一方で、電子書籍市場が右肩上がりに伸びている現状がある。それを踏まえた上で、出版業界のビジネスモデルだけでなく「編集者と漫画家が一緒に作る漫画、というもの自体が岐路に立たされているのではないか」と都築氏は指摘する。

漫画の世界でも、講談社から独立した佐渡島庸平氏が立ち上げる編集エージェント・コルクのように、漫画家のファンコミュニティを作ることで新たなビジネススキームを構築しようとする取り組みが徐々に広がってきているのも事実だ。

「このご時世、内容自体が本当におもしろかったら、漫画をSNSで投稿すれば必ずといっていいほど誰かが見つけてくれます。今はネットに上がったおもしろいものは絶対見つかるし、一度見つかったらあっという間に拡散されるんだから、今は『下積みで苦労する』とか『長年やり続けた先に光が見える』とか、そんな心配をする必要はないと思うんですよ。単純に、漫画業界は今が端境期なんだと思う。

 さっきも話したように、アニメ化やドラマ化といった従来的なメジャー級のヒットを目指すのであれば別ですが、漫画は単行本になってなんぼなんだから、まずはそこを目指せばいいんですよ。コミケやコミティアで出すような同人誌や漫画がリアル書店で平積みにされる『ONE PIECE』と比べられたら物量で敵わないけど、漫画アプリだったら同人漫画も『ONE PIECE』も扱いはほぼ一緒。並ぶのはたいてい書影だけなんだから、書影と中身で勝負すればいい。プラットフォームが一緒なんだから、何も恐れることはないですよね。

 そういうことを踏まえて、新しい時代は若い人たちが作っていくしかないんです。おっさんたちを差し置いて、自分たちの世界やコミュニティーを作っていくしかない。『新時代のスポットライト』は他にも沢山あるから」(都築氏)

その「新時代のスポットライト」は一体どこにあるのだろうか。その質問に都築氏は「若い人が見つけるべきだ」と答える。そして、同氏にとっておもしろい作品とは何なのかを語ってくれた。

「僕なんかに聞くより、新しい作品や文化は若い人たちが発掘しないとダメ。僕なんかも周りの若い子たちに『教えてほしい』って言うくらいだし。それこそマンガトリガーさんでも、“ここでしか扱えない漫画”があると強いですよね。音楽の世界でも、そこにしか置いてない作品を扱うレコード屋さんとかありますし、実際に足を運ぶ人は多いですから。例えば、かつて出版社から不遇の扱いを受けた漫画家の作品ばっかり出してみるとか、そういうスポットライトの当て方もありますよね。オリジナルコンテンツを作るという文脈とは違うところで『ここでしか読めない』ものを考えてみるのも楽しいかもしれない

 好きな作品を見つけられるかどうかなんて、こればっかりは出逢いだからねぇ。一つ言えるのは、作家の不満が高じて生まれた作品なんかは引っかかりますね。ただ、それっていわゆる“ランキングのベストテン”に入るような作品じゃなくていいんです。明らかに優れている何か、じゃなくていいの。それよりも重要なのは、それを50年やり続けているとか、10000枚撮り続けているとか、つくり手側の生き様。生き様が反映されるような作品には、作品としての評価以前に、エネルギーが宿っちゃうんでしょうね。

 あのゴッホだって生前はまったく売れなかったでしょ?それでも売れるために絵を描き続けたって、はたから見たらただの変人ですよ。それが、死んだ瞬間に世界最高になる。そういう“死後の評価”なんてものはどうでもいいんですよ。生き様が作品に宿れば、誰かが反応するかもしれない。そして、ネットがある今は、絶対に見つけてくれると思いますよ」(都築氏)

最近では、大手出版社の中でも、週刊漫画誌ではなく漫画アプリ発の漫画がスマッシュヒットするケースも増えてきた。Twitterでも、エッセイコミックや緩い作風の漫画投稿が後を絶たない。「漫画を描く」という行為自体が一般化し、発信するメディアが多様化・細分化する今の時代だからこそ、未知なる化学反応が起きる可能性を秘めている。「端境期」と言われる漫画業界の中で、思考を絶やさず自分たちなりのスポットライトを見つけ出すことができれば、そこから新しいスターが誕生するかもしれない。

最後に、マンガトリガーに配信されている作品の中でオススメしたい漫画を聞いてみた。

「立原あゆみさんの漫画はある?『本気(マジ)!』とか。僕が一番尊敬している漫画家さんなんですけど。えーないの?入れてよ!場末のヤクザの話なんですけど、彼は最強のストーリーテラーですよ。キャラも風景も、世界観に哀愁がある。セリフもパンチラインが多くて、「女の穴はね、男のさみしさ悲しさうめる穴よ」とかホントいいよねぇ。最近シリーズ50巻を電子書籍で一括購入しちゃいました。

 立原さんの作品は、アンダーグラウンドなんだけど場末感がある。決してただかっこいいだけではない。大体葛飾あたりの下町に行くと、今もこういう風景はいっぱいあるんだな、と思える雰囲気があるんですよ。ちなみに紡木たくさんの『ホットロード』とかも好きですね。あ、『女帝』ある?『女帝』もおすすめですよ」

※2017年12月8日10時に、『ホットロード』作者の名前を「鈴木たく→紡木たく」へ修正いたしました
※同、立原あゆみさんの三人称を「彼女→彼」へ修正いたしました

  • 本気(マジ)!

    本気(マジ)!

    立原あゆみ

    極道からも世間からも慕われる本気(マジ)は、男の中の男!! 男の純情を謳いあげる入魂の名作。

執筆者プロフィール

都築響一

都築響一

編集者

1976年から86年まで『ポパイ』『ブルータス』誌で現代美術、建築、デザイン、都市生活などの記事をおもに担当する。1993年、東京人のリアルな暮らしを捉えた『TOKYO STYLE』刊行。1996年発売の『ROADSIDE JAPAN』で第23回・木村伊兵衛賞受賞。現代美術、建築、写真、デザインなど広範な分野での執筆活動、書籍編集を続けている。

都築響一氏のマンガトリガー一押し

  • 【特別インタビュー】「若者は新時代のスポットライトを開拓せよ」都築響一氏が語る漫画業界の憂鬱と光 待てばタダ
  • 女帝

    作画 和気一作/原作 倉科遼

    銀座のクラブなんて、もう誰も行かないわけじゃない。昭和のファンタジーだよね。そういう意味で、『女帝』には失ってしまった僕たちの昭和文化がにじみ出ている感じがする。終わった男女の物語を書いているところとか、とても好きだなぁ。(都築氏)

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