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ハッピーエンドなんて、くそくらえ。最高に迷惑で、最高に愛おしいおんなの生き様。『カンナさーん!』【寄稿: チャイ子ちゃん®】#座右の漫画 #チャイ子ちゃん®

チャイ子ちゃん®
執筆者:チャイ子ちゃん®

2年前。
雲ひとつない青空の日も、心地よい風が吹き抜ける日も。いつも、私の心にはどしゃ降りの雨が降っていた。

 

 

「なんか、ぐっとこないね。」
コピーを書いたA4の紙の束をとんとん、とまとめると、部長はそのままそれらをすっと机の脇に退けた。そう、それらはもう、ゴミであるかのように。

 

「君の書くコピーは、70点なんだよなあ。間違ったことは言っていない。正しいんだ。でもさ、ただ正しいことを言われてもね。人の心は動かないよね。」

 

まあ、もうちょっと頑張ってみて。というと、さあ話は終わったと彼は席を立った。

 

広告代理店に入社し、マーケティング部に配属された。3年目の時に転局試験を受け、やっとコピーライターになれた。その時は嬉しくて嬉しくて、名刺の肩書きの「コピーライター」の文字を何度も眺めたものだった。

 

 

そして2年が経っても、ずば抜けたコピーを書けないままいた。1年目の時は、まあ1年目だから、まだ学ぶ時期だよと言われていたが、2年目になるとそうもいかなくなってくる。

 

 

公募に出すも、落とされる日々。同い年のコピーライターは、めきめきと頭角を現し、様々な広告賞を受賞し始めていた。3年のビハインドがあるとはいえ、SNSにあげられる彼らの嬉しそうな受賞報告に、心はどんどん沈んでいっていた。

 

 

夢を叶えたら、すべてがうまくいくと思っていた。
物心ついた時から、書いていた。そしていつしか、コピーライターになることが目標となっていた。一生書いて、死んでいくんだ。そう本気で思っていた。

 

おとぎ話の主人公は、最期に王子様と結ばれた。夢を追いかける物語は、最期にチャンスをものにして夢を叶えた。そうして、幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。でも本当にそうなのか。一目惚れだけで結婚したお姫様は、一緒に暮らしたら性格が合わないかもしれない。王子様は、また他のお姫さまに一目惚れをして浮気をするかもしれない。夢を叶えても、その職業が天職じゃなかったと気づくかもしれない。そう、物語は、その後こそが重要なのだ。

 

言葉を書くことは楽しいものではなくなってきた。そして、私はずるい方向に行くことを覚えだした。とにかく、自分の言葉が採用されればいい。だから、クライアントが望む言葉だけを、書けばいい。

 

そこにチャレンジはなかった。新しさも、ハッとする気づきもなかった。ただひたすらに、耳障りのいい、そしてクライアントが安心できる言葉だけをただひたすら量産していた、私らしさなどかけらもなく、綺麗な言葉をこねくり回しているだけだった。

 

「ねえ、私がやりたいことって、これでよかったんだっけ?」

 

そんな時に、ひとつの漫画に出会った。ふと手にとった「カンナさーん!」は、服飾デザイナーの女性が主人公の漫画だった。なにかしら自分に近しいものを感じ、ページをめくる。

 

主人公のカンナさんは、とにかくウザい女だ。

 

美人でもなく、太っているカンナさん。しょっぱなから旦那に浮気される。それでもめげずに前向きに、息子を抱え奮闘する彼女に、最初は応援している自分がいた。

 

よくあるストーリーでは、主人公はいつでも一生懸命で、前向きでひたむきだ。そのまっすぐな姿、そして彼女のやさしさに感化され、周りはいつしか主人公の味方になる。そして、さまざまなトラブルが起こっても、周りの人の支えでピンチをチャンスに変えて頑張る主人公。そしていつしか彼女はなくてはならない存在となり、トントン拍子に成功し、パートナーにも恵まれる。

 

だが。カンナさんはそうではなかった。

 

人が傷つくことを平気で言う。空気を読まない。余計なことばかりする。そのくせ妙に自分に自信があり、自分のやっていることは間違っていないと思い込んでいる。実の姉妹さえも、カンナさんのことを呆れている。

 

絶対に友達になりたくないタイプだ。ブスでデブのくせに調子乗っててなんなの、ウザい。私だったら関わらないようにする。SNSに愚痴を書くかもしれない。

 

カンナさんは夢のデザイナーという職を手に入れ、息子を育てながらもバリバリ働いている。

 

しかし、職場でなくてはならない存在にはならない。大きなチャンスをつかんで、デザイナーとしてブランドを成功させても、これからと言う時に妊娠し休みたいと申し立てたことで辞めさせられる。勝手な行動を起こし、思いがけず服は売れに売れても、契約違反でクビになる。転職活動をしても、うちにはちょっと、と門前払いさせられる。

 

職場だけではない。カンナさんは子供を取り巻く環境でもうまくこなしていけない。ママ友達にハブられ、問題を次々と起こしていく。海外赴任をしても、子供は環境に馴染めずいじめを受け、ストレスで十円ハゲができる。

 

そうなのだ。人生なんて、うまくいかなくて当たり前なのだ。夢の職に就いたからって、成功するわけじゃないのだ。この漫画は、世の中に溢れている甘ったれたサクセスストーリーへのアンチテーゼだ。

 

一生懸命頑張れば、きっとうまくいくよ。そんな言葉はまやかしだ。
大概、人は失敗する。うまくいきそうだ!とほくそ笑んだことは、120パーセントその通りにはならない。チャンスは、だいだいチャンスにならないまま消える。そして、今回は残念だったね、次回は頑張ろうよと、慰めのお疲れ会を開催し居酒屋で乾杯し、ビールとともに「しょうがない」の言葉で失敗を流し込み、幕を閉じるのだ。

 

この漫画を、「等身大のお仕事ストーリー」や「働く女性のリアル」と表現するにはあまりにも陳腐な言葉すぎる。

 

カンナさんはプライドをいともたやすく捨てる。

 

デザイナーの職を失ったら、生活のためにコンビニのバイトをする。私バカだからわかんないんだよ、と教えを請う。仕事を紹介して!と知り合いに泣きつく。でもその時に自分を恥じ、縮こまることなど決してしない。

 

自分と息子の生活のためにプライドをかなぐり捨て、相変わらず周りに迷惑をかけ、嫌われながらもがむしゃらに生き続けるカンナさんを、美しいと思った。

 

成功を目指してたゆまぬ努力を続けるべき。そんな言葉でまとめたくはない。どれだけやってもだめな時はある。それでも、人生は変わらず続いていく。私たちの物語は、「幸せに暮らしましたとさ」では終わらない。自分の人生の責任は、親も友達も配偶者も取ってくれない。自分が生きる道が、自分の物語になっていく。全ての主導者は、紛れもなく自分だ。物語を楽しくするのも、辛くするのも。

 

70点のコピーしか書けないことを、憂いている時間すら無駄だと思った。

 

いくつかの小さな賞の獲得と、自分の得意分野を見つけることができ、私は新たな場所で再び、コピーライター第2章のスタートを切った。
そう、プライドを捨て他人の目を気にせず、たとえ誰かに嫌われたとしても、がむしゃらに突き進むために。全ては、自分が納得できるために。

もし、カンナさんが存在していたとしたら。今の私は彼女と少しは、分かり合えるようになったかもしれない。

 

ねえ、カンナさん。あんたは最高にウザくて、最高にいい女だよ。

  • カンナさーん!

    カンナさーん!

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執筆者プロフィール

チャイ子ちゃん®

チャイ子ちゃん®

エッセイスト

会社員のかたわら書いたブログ「おんなのはきだめ( http://chainomu.hateblo.jp/ )」が話題に。得意なことは飲酒。好きな場所はスナック。自称クズ偏差値70。クズ界のエリート。

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