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試験前になると漫画が読みたくなるのは、何故なのか『HUNTERXHUNTER』『幽☆遊☆白書』【寄稿: 熊谷真士】#座右の漫画 #熊谷真士

熊谷真士
執筆者:熊谷真士

 

学生の頃、僕は「試験の直前になると何故か既に読んだはずの漫画を読み直したくなる病」という、独特な病気にかかっていた。

 

ああ、明日から試験だ。くそ、何の勉強もしていない。うわ〜、これは徹夜だな。ああ、最悪だ。マジで最悪。試験まであと15時間。あ〜あと15時間か、いったん『HUNTER×HUNTER』読むか。

 

 

この、「いったんハンターハンター読むか」という、ワケのわからない「いったん理論」を駆使することで、試験前の貴重な時間を勉強でなく漫画に充当するのが、伝統行事となっていた。

 

それも、ちょっとした息抜きの域をはるかに超えた、偉大なる読み返しである。2冊や3冊では留まらない世紀末の読み返し大会。読み終えた頃には疲れ果てて勉強どころの騒ぎでは一切ない。一体全体、自分は何をしているのか。

 

どんなに試験前にハンターを読み込んでも、試験問題は一問も解けやしないのである。グリードアイランドの呪文カードの名前を丸暗記したところで、その豊富な知識が発揮される機会は永久に訪れない。

 

その活動は全く合理的ではない。

 

 

しかし、ダメだ、読んじゃダメだと思いながら読む漫画は、控えめに言って最高だった。部屋に閉じこもり、世界から逃げるように布団にくるまり、何度も読んだはずのストーリーを、改めてじっくりと味わう。

 

もう先の展開なんて分かっている。台詞も覚えている。しかし、だからこそ新たな発見があるものだ。

 

「やっぱハンター試験の時のヒソカたまらんわ。目ぇ細すぎだろ…」「うわ、初期のパクノダの顔きめぇ…こいつ途中で整形したのか?」そんな一人ツッコミを入れながら読み進む。

 

僕は何度でも同じページをめくり、そして漫画は何度でも同じ展開でそれに応える。

 

予定調和の世界で、それでもそこにまだ僅かに残っている旨味をハイエナのように探しまわり、それを見つけては一人で喜びを噛み締める。

 

衰弱しきった理性の他に、自分の漫画を読む手を止める者は見当たらない。あと一巻、あと一巻、あと一巻♠︎、あと一巻♡、あと一巻♣︎、あと一巻…♢

 

 

 

..

 

試験まで10時間を切ったタイミングで、ようやくハンターハンターを読み終え、ベッドの上で項垂れながらボーっとする。

 

貴重な時間をふいにし、心地良い疲労感まで残っている。眠気もメキメキとその頭角を現してきている。なぜ漫画を読んでしまうんだろう。

 

試験で良い点を取る。そのために、勉強をする。

 

この分かりやすく合理的な活動を差し置き、非合理的な活動に身を投じてしまうのは何故なんだろう。

 

試験のことを頭の片隅にやり、天井の一点を見つめながら、僕はこの本質的な問いに対する答えを探していた。

 

「何故読んでしまうのか」それが分からないと対策のしようがない。勉強を始める前に、まずは自分自身と向き合う必要がある。

 

過ちを繰り返してしまう根本的な原因を突き止めなくていはいけない。

 

 

気付けば僕はこの自分の「非合理な活動」の理由を探すために『幽☆遊☆白書』を手に取り、恩師である戸愚呂先生にその答えを求めていた。

 

そこに記されていたのは“闇ブローカー”という謎の職業を引っさげて堂々の角刈りで登場し、主人公との戦いを通じて主人公の座を奪い取る程の魅力を見せつけた、一人の不器用な男の生き様だった。

 

弟子を守ってやれなかった罪の意識から生涯自分を呪い続け、やがて強さを求めると偽って自分を倒してくれる強敵を求めた、愛と哀しみの大先生。

 

その生き様はまさに合理性からかけ離れた非合理の産物であり、そんな先生が最後に残した「世話ばかりかけちまったな」という余りにも短い台詞を見て、何度でも涙腺は崩壊する。なぜ..

 

なぜ先生の人生は、なぜこんなにも感動的なんだ..

 

 

 

その人生は余りにも崇高で、僕のような若輩者にそれを説明する権利は無いのだ。それだけは間違いない

 

しかし、遠くかけ離れた存在であるはずの先生の生き様は迷いや後悔に満ち溢れているようで、それがとても人間的で、どうしようもなく愛おしくも感じられてしまう

 

答えのない問いに迷い、答えの出ないまま時間は過ぎ、最期は死ぬ為に戦い、その目的を達成して静かに散っていく、ムッッキムキの、角刈りの、グラサン

 

それは葛藤の歴史であり、その中に彼なりの愛や哲学があり、彼にしか分からない結論があり、それが他人からは理解し難く、だからこそ.. ああ.. そうか..

 

先生は浦飯に負け、そして先生は人生に勝ったんだね。うん、そうに違いない。違いないよ.. だから、涙が.. 出ちゃうんだ…

 

 

 

ワケの分からないトチ狂った解釈を振り回す狂気のオタクと化した自分は、自らの勝手な解釈にフンフン頷き、そのまま勢い良く幽白を読み進めていく。すると仙水が出てきて、そして彼も美しく散っていった

 

「魔界に来てみたかったんだ 本当にそれだけだったんだよ」ああ凄い。なんて凄いんだ..。彼もまたスゴイ..

 

 

人は生きていく中で人生の意味に迷い、そして迷いを抱えたままその時がきて、自分なりの小さな結論を出して、それを一人で達成して、そして、どこかに消えていくんだ

 

そう、思えば人生の目的をシンプルに設定し、それの達成のために人生の時間を淡々と合理的に活用している人間の話なんて、何が面白いんだ?正直、聞きたくもない。

 

迷うからこそ、自分の中の善と悪が弛むからこそ、そこに言いようのない深みが出てくるんだ。うん。そうなんだ。ああ、ああ仙水

 

仙水 仙水ぃぃいぃいい

 

 

 

独自の解釈を構築し、誰にも理解出来ない歪な納得感を一人で感じながら幽白を読み終える。感動の物語だった。

 

戸愚呂、仙水、雷禅、黄泉、躯。そのどれもが、“迷い”というストーリーに満ち溢れていた

 

彼らは変わっていく価値観の中で、美しく揺れていた。アナキン・スカイウオーカーを思い出した。ああ..。ああ.. 夢のような満足感の中で、ふと試験のことが脳裏をよぎる。

 

 

急に脳内に現れたその“現実”は、がん細胞が如く瞬く間に増殖し、一気に脳内を支配せんとする。 う、ゥウオオオオ! オオオオオ!!!

 

試験という恐るべき事実、その圧倒的異臭を放つ臭い“何か”に、早く蓋をしたい。自分は慌てて書物を探す。何か、何かないか、何かないのか?!?ああハンターハンターだハンターハンターしかない!!

 

あれ?ハンターさっき読んだぞ?!?!いや、ちがう!!!


 

『幽☆遊☆白書』で発見した“人生の迷い”というテーマで、改めてこの『HUNTER×HUNTER』という著書を読み直すのだ。そう、その時がきたのだ。落ち着くんだ、落ち着け自分

 

 

 

“迷い”

 

この、新たな切り口でハンターを読むことにより、自分の中での視座を改めることにより、以前には感じられなかった新たな物語がそこに浮かび上がるはずだ。そうだ。そうに違いない

 

 

ほら、アレだ。歴史を思い出して欲しい

 

例えば同じ国の同じ歴史であったとしても、それを“食”という切り口で紐解いた場合と、“経済”という切り口で紐解いた場合とでは、全く違う景色が広がっている。

 

ストーリーの魅力というのは、ある意味、読み手の視座に大きく依存しているところがあると思うのだ。それは漫画にも言えるだろう。

 

同じ『HUNTERXHUNTER』という漫画であったとしても、“戦闘”という切り口で読んだ場合と、“迷い”という切り口で読んだ場合とで比較すると、どうだろうか。全く違う風景が見えるに違いない

 

そうだとすれば、新たな視座にて、改めてハンターを読み直す必要があるだろう。うん。

 

視座が違う以上、先ほど読んだハンターとは、違う物語だ。うんうん。だから読み直して良いのだ。読み直そう。早く読まないとね。早く早く♡ 急がなきゃね♡うふふ

 

 

..

 

本日数時間ぶり2度目の『HUNTER×HUNTER』は、やっぱり最高だった。そこには、1読目の物語とはまた違う、“迷う”男達の、人生の物語が記されていた

 

 

この頃になると既にバッチリ夜は明け、試験開始までは数時間を切っている。もう今から勉強しても、到底間に合わないだろう。

 

この絶望的な状況が、自分の、「漫画を読む」活動を、ついに完全に肯定した。もうどうせ勉強しても間に合わない。だから漫画でも読むか

 

家を出るまで、あと2時間ほど時間がある。この余った時間で、念のため、幽幽白書の戸愚呂編以降の復習だけしておこう。

 

 

..

 

そして家を出る10分前になる

 

..試験勉強はしていないが、やけに清々しい

 

徹夜で必死に漫画を読み込んだことにより、キャラクター達の力強い言葉が脳裏に刻まれ、彼らの存在が、自分に憑依したようだ。身体が、脳が、心が、やけにフワフワする。

 

ふと自分が、以前では考えられない完全究極体のモンスターとなっていることに気付いた。不思議なことに、試験に怯える“弱い自分”は、もうどこにもいない。

 

 

「…試験? それがどうした。この俺様の人生を、下らん“点数”などで計ろうとは、笑止千万」

 

試験勉強という合理的な選択を避け、“漫画を読む”という非合理な活動を選択し続けた結果、何とも言えず力強い、厨二病の真骨頂のような生命体が爆誕している

 

漫画に費やした時間が、そこで出会った様々な恩師達が、自分自身を覚醒させてくれたようだ。俺は、完全に生まれ変わった

 

歯を磨いて顔を洗い、靴を履く。もう持っていっても意味のない教科書やノートは置いていく。こんな下らんものを試験直前に見直す必要もあるまい。何もいらない。俺は自由。俺は自由だ

 

評価。点数。どこかの誰かが勝手に決めた価値観に縛られ、もがき苦しんでいた過去が遠い昔のようだった。俺は、本当に大切なものに気付いた。それは、俺以外の誰も気付いていない、この世の真理―

 

いいか。答案用紙は真っ白なキャンバスだ。そこに、誰にも理解できない俺だけの真実の物語を記す。

 

物理?化学?数学?知るかハゲ。俺は、聞かれてもいない、俺だけの世界の物語を書く。

 

点数をつけたい奴がいるなら好きにすれば良い。そいつの価値観で勝手に判断しろ。0点。上等だ。

 

貴様には、真の芸術を理解する素養がなかったというだけの話だ。断言しよう。

 

300年後、俺様の解答用紙は「起源の書」として全宇宙の歴史の出発点となっているだろう。その時、貴様の0点という評価は、世紀の恥さらしとなる。くっっくっく

 

はあああああ〜〜っっっはははっはっはっは!!!!!!

 

 

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執筆者プロフィール

熊谷真士

熊谷真士

ブロガー

文章を書いています。鬼の形相で書いています。ブログ『もはや日記とかそういう次元ではない』( http://manato-kumagai.hatenablog.jp/ )。Twitter: @kumagaimanato

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